このたび,日本溶射学会第39期会長に選任されました東北大学の小川和洋です.これまで,当時の会長を始め理事ならびに会員の皆様から,多くのことを勉強させて頂きました.この場をお借りして,厚く御礼申し上げます.これまで育てて頂いたご恩を少しでもお返しできればと考えております.微力ではございますが学会の発展のために最大限の努力を致します.会員の皆様のご協力,何卒,宜しくお願い致します.
私は,日本溶射学会に入会し(入会当時は日本溶射協会),今年でちょうど20年になりました.入会後は,講演大会に参加させて頂き多くの方とのディスカッションや元会長の福本昌宏先生らが立ち上げ,活動されていた熱プラズマスプレー(TPS)研究会にも参加させて頂き,溶射の面白さを痛感し,多くの刺激を受けました.今後は若い研究者・技術者の方々へも同じような刺激を与えていくことが使命と感じております.若い研究者・技術者のみならず,会員の皆様が,本学会へ参加することでワクワク感・ドキドキ感を持てるような魅力ある学会作りを考えていきます.学会員であることのメリットや旨味をどれだけ提供できるかを真剣に考え,昨今の会員数減少の歯止め,さらには会員数の増加を図りたいと考えております.
さて世の中は,未曾有の新型コロナウイルスにより,これまでの生活とは大きく変化しており,コロナによる閉塞感は予想を遙かに超えるものであります.会員の皆様におかれましてもやりたいことあるいはやらなければいけないことがあるにも関わらず,やることができない状況が続いているものとお察し致します.もうしばらくはコロナの終息も難しいと思われますが,考え方を変えれば,このような状況で学会として何をしていくかをじっくりと考える時間ができたとも言えなくもありません.大きくジャンプするためには,一旦屈む必要があり,今はそのときと考え,大きく飛躍するための策を会員皆で考えていきましょう.
ところで,坂田昌一先生という学者をご存じでしょうか.2008年に「小林・益川理論」による物理学への貢献でノーベル物理学賞を受賞した小林誠先生と益川敏英先生が師事した素粒子物理学の第一人者です.坂田先生は,「イノベーションは必ず学問の境界領域で起こる」と言われています.溶射技術は,材料工学,機械工学,電気工学,物理学,化学といった多くの学問分野の融合であり,一つの学問に偏らずに多様な知識を総合した学問・技術であることは間違いありません.ただし,溶射工学・溶射技術と一括りに考えた場合,イノベーションを起こすための新たな学問の境界領域を探す時期であると考えます.そこで,今期のスローガンを「次世代溶射技術の挑戦」とし,会員の皆様のお力をお借りすることで新たな境界領域の開拓へ挑戦したいと考えています.これは現在までの溶射技術を基盤技術とし,これまで検討してこなかった分野まで視点を拡げることで次世代の溶射工学・技術への展開を考えていきます.まずは,溶射工学・溶射技術の将来を考える将来構想ワーキンググループ(WG)を新設致しました.もちろん,ここでは日本溶射工業会のお力もお借りし,強い協力関係のもと進めて参ります.このWGでは,溶射工学という学術領域の探求のみならず,溶射技術という工業的な観点からの展開も進められればと考えます.本WGに関しては,会員の皆様からの知見・アイディアを積極的にお出し頂きたいと考えています.
また,コロナ禍以降,対面での会議や講演会ができず,オンライン化の動きが進んでいます.この点を強化し,会員の皆様との情報交換・意見交換の場を増やす目的で,オンライン会議WGを新設致しました.これにより,支部を越えた研究会・講習会への参加が効率的に実施でき,支部活動の活性化,会員の皆様への情報提供が活発化するものと考えております.是非,本WGを積極的にご活用頂ければと考えます.オンラインの活用は,諸外国との連携も容易になります.特に,中国,韓国,シンガポール,インド,オーストラアなどのアジア諸国の関連機関と連携・交流を図り,アジアの溶射技術,とりわけ日本溶射学会のプレゼンスを世界に発信できればと考えます.
最後になりますが,理事,各委員会委員,および事務局の皆様には,円滑な学会運営に向けてご協力をお願い致します.また,学会ならびに溶射技術の更なる発展のために,会員の皆様のご協力ならびに建設的なご意見を切にお願い致します.
日本溶射学会第37期と第38期の2期4年間の会長職を,まだ継続している世界的なコロナ禍はさておき大過なく乗り切れました.これも,会員の皆様はじめ理事,各委員会の皆様と事務局の方々のご協力とご尽力のおかげであり,感謝を申し上げます.
私は1993年4月に母校の信州大学に奉職し,同年7月に恩師の清水保雄先生のご紹介で本学会に入会し,早28年間が経ちます.この4年間を振り返ってみますと,本学会としても大きなイベントである本学会の創立60周年式典,国際溶射会議(ITSC)2019(横浜大会)と全国講演大会のオンライン開催化に会長として参加できたことが,本当に幸運でした.
創立60周年式典を副会長として種々準備しておりましたが,まさか会長に就任するとは思ってもおりませんでした.この記念事業の一つとして,日本機械学会の日本機械遺産制度を参考にして溶射遺産制度を企画し,これまで第7号までの溶射遺産が登録さております.さらに,昨年8月溶射遺産第1号を含む株式会社シンコーメタリコン様のアーク溶射ガン3台が日本機械遺産No.103「日本の溶射技術を工業化したアーク溶射ガン」に認定されました.推薦させていただき,溶射技術のプレゼンスの向上に一役買ったと自負しております.
また,江沢謙二郎氏が我が国に溶射法を導入して百年となる年に,日本で3回目の国際溶射会議となったITSC2019(横浜大会)が開催され,成功裡に終わりました.日本溶射工業会と共同で誘致に始まりLOC委員としても日産自動車横浜工場の見学を主に担当しました.私は阪神淡路大震災直後の1995年の神戸大会は一発表者として,2004年の大阪大会は実行委員と発表者として動きまわっておりましたが,3度も国内でのITSCに参加できたのも幸運でした.なお,ITSC2000(ウィーン大会)がコロナ禍で中止になったことを思えば,良い時期に開催できたと今更ながら思います.
さて,IoT,ビッグデータ,AI,産業用ロボットなどの活用を含むインダストリー4.0の産業革命が進むなか,グローバール化や高齢化社会を迎え,働き方改革,さらにはポストコロナなど社会環境も大きく変わろうとしております.このような変化のなかで,総会員数が減少し,特に正会員の減少が2014年から継続して歯止めがかかっておりません.少子高齢化の人口減少のなか,さらに企業や技術者などの学会離れが進む環境下で,溶射という一つの表面被覆プロセスを扱う学術団体ですので,会員増は大変難しいことですが,具体的な戦略のないままに第38期が終わってしまいました.今後は,新会長に期待したいと思います.
第39期は,『次世代溶射技術への挑戦』をテーマに掲げる求心力ある小川和洋新会長のリーダーシップのもと,本学会がますます発展していくことを祈念します.また,理事・将来構想WG副主査としても,渡邊WG主査,福本副主査とともに,本学会がより発展するように,これまでの経験を含め知恵を絞っていきたいと思いますので,会員の皆様のご協力をお願いいたします.